しあわせの王子 オスカー・ワイルド

「ふうーっ。ずいぶんと遅れちゃったな。みんなはもう、エジプトに着いたのかなあ。ぼくも明日、旅に出よう」 ツバメは王子の足元にとまり、そこで眠ろうとしました。
すると、ポツポツと、しずくが落ちてきます。
「あれ、雨かな? 雲もないのに・・・。あっ、王子さまが泣いている。もしもし、どうしたのですか?」
「こうして高い所にいると、町中の悲しい出来事が目に入ってくる。でもぼくには、どうすることも出来ない。だから泣いているんだよ」
ツバメは南の国へゆく日を一日一日とのばして、町の困っている人たちに、王子の宝石をつぎつぎに持っていきました。
ツバメは、サファイアの瞳もなくなった王子の傍から離れない決心をしました。目が見えなくなった王子のために空を飛んで、町の様子を話してあげたのです。
寒い冬は訪れました。ある日、ツバメは王子にいいます。
「王子様、さようなら」 「おお、よかった。やっと南の国へ行く決心をしてくれたんだね。」
「いいえ、王子様、わたしはもっと遠くの国へまいります。」
ツバメは最後の力で王子の唇にキスをすると、あしもとにぱたりと落ちて死んでしまいました。
そのとたん、王子の像の中で何かが割れたような、おかしな音がしました。
王子のなまりの心臓が、まっぷたつにさけてしまったのです。
つぎの朝、町の人たちは、しあわせの王子の像がすっかり汚くなっているのに気づきました。
「美しくない王子なんか、必要ない。とかしてしまおう」
ところが不思議なことに、王子の心臓は、どんなにしてもとけません。
「天使よ。この町で一番美しいものを、持っておいで」
神さまにいいつけられて天使が持ってきたのは、王子の心臓とツバメでした。